読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

ハサミをキるそらべるの夢

私がみた夢をもとに短い小説を書きます。

少年と父

 

 満月の夜で、あたりがよく見えた。少年とその父は、月の光を浴びながら墓地を歩いていた。

 

「一年なんてものはすぐに経っちまうもんだ。母さんが死んだところで周りの何が変わるってわけでもない、いつものように日々がただ慌ただしく過ぎて行くだけだったな」

 

 そう父は言う。

 

 墓地の入口から母の墓までは少し距離がある。ここは墓ごとに形が同じなので、探すのが大変だと少年は考えていたが、父は迷うことなく進んでいる。

 

「そういえばお前と会うのも久しぶりだな、今日は一緒に夕飯でも食べよう」

 

 父の声は、多分少年には届いていなかったと思う。

 

 父は少年がもう側にいないことに気がついていない。

 

 膝の力が抜け、父はその場に崩れ落ちる。どこの誰のだか分からない墓にもたれた。

 

 父は自分の背中にナイフが刺さっていることに気がついていない。

 

「母さんの....作った卵焼......き?違うな、クルマの運転で..もしようか.....それともお前...が」

 

 墓地の入口で少年が父を振り返る。

 

「強くなれば白黒をつけられる訳じゃあない、白黒つけたほうが強いんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

ルール

 

 僕は口の悪い女と夜の田舎道を歩いていた。

 

 口の悪い女はガラの悪い見た目をしており、実際にガラが悪い。というか悪ぶっている感じだろうか。いつも歩きタバコなんてしている。

 

 そんな口の悪い女がトイ・プードルの散歩をしているのは最高に笑える光景に思えた。もちろん僕は笑ったりはしないが。

 

 そのトイ・プードルは真っ白で、ショードッグのように綺麗に毛が刈られている。ちょっと香水の匂いなんてするし、お金持ち家のイヌみたいで、実際にそうだ。

 

 どうして口の悪い女がそのトイ・プードルをこんな夜に散歩しているのかは知らない。頼まれたのだろうか、僕は急について来いと言われただけだ。

 

 バス停のベンチに爺さんが座っているのが見えた。僕たちがその前を横切ろうとすると、道路に1匹の黒いイヌが現れた。

 

 その黒いイヌはおそらく雑種であり、大きかった。汚れており、痩せている。野良犬なのだろう。

 

「私はあの黒いイヌに恋しています」

 

トイ・プードルはそう言った。

 

 イヌにも恋心なんてものがあるのだろうか。僕にはよくわからなかったし、そもそも僕たちの恋心と同じ感じなのだろうか。

 

「しかしあの黒いイヌと私が結ばれることはありませんし、そんなことがあってはなりません」

 

 どうしてだろうか、野良犬と飼い犬という違いがあるからだろうか。

 

「それはルールだからだ」

 

ベンチの爺さんが言った。

 

「そうです、ルールだからです、私とあの黒いイヌが結ばれてはいけないというルールがあるです」

 

 イヌの世界は面倒なんだなと思いながら、僕と口の悪い女は歩き始めた。

 

 

 

 

奇妙なミッキ

 

 今日は友人が家に泊まりに来ている。夕方から一緒に遊んでいて、そのまま泊まることになった。

 

 勿論そのまま就寝するわけもなく、その友人は私の漫画を読んだり、少し一緒にゲームをしたりしていた。

 

 午前一時ごろ、そろそろ寝ようかと言うときに、誰かが家に訪ねにきた。

 

 玄関のドアを開けると、そこにクラスメイトが立っていた。

 

 ミッキと呼ばれる(そう呼ぶのは私しかいないが)彼の手にはなにやらコンビニの袋が握られていた。

 

 ミッキは私の家に一言も話さず入ってきて、部屋にいた友人のもとへ向かった。

 

 ミッキの持つ袋にはモンスターエナジーが三本入ったいた。

 

「わざわざ買ってきてくれたの?」

 

私は言った。しかしどうして寝る直前にモンスターエナジーなんて買ってきたのだろうか。

 

 まあモンスターエナジーは好きなので貰っておこうと思った。

 

 しかし、ミッキは三本を袋から出した後、

 

「お前らにやるとは言ってない」

 

と言い、それらを全て飲んでしまい、そのまま帰ってしまった。

 

 何をしに彼はここまで来たのだろうか、だいたい彼の家は私の家から電車に乗って一時間ほどかかるのだ、どうやって帰るつもりなのだろうか。

 

 訳が分からないまま、私たちは眠りについた。

 

 

 後日、学校でテストがあった。数学のテストであり、そこそこ難しい問題であったが、私は半分以上空で、道路に面する窓の方を見たりしていた。

 

 他のクラスメイトの集中する姿を眺めていると、後ろの方から、ううううううううというような低い唸り声が聞こえて来た。それはミッキの声だった。

 

 クラスメイトは皆ビックリして、ミッキの方を振り返る、彼は別に苦しそうな表情をしているわけではなく、問題に集中しながら唸っていうようだった。

 

「トラックが突っ込んでくる」

 

唐突に彼は言った。

 

 次の瞬間バシャーンと沢山のガラスが割れる音とともにトラックが教室に突っ込んで来た。

 

 怪我人は出なかった。

 

 

 

 

 

クジラの子

 

 砂浜は多くの貝や石を含み、裸足で歩くのは少し痛い。サンダルを履けば良かったと後悔した。

 

 海のシーズンも終わり頃で、日が暮れそうになる今では少し肌寒い、僕の他に人は数えるほどしかいなかった。

 

 ぼんやりと海を眺めていると、沖の方に何かが見えた。

 

 目を凝らしてもよく分からない、大きな何かが海面付近で蠢いている。

 

 次の瞬間、大きな音とともに、海面からそれが飛び出してきた、それは信じられないくらい大きなクジラだった。

 

 クジラはゆっくりと宙を飛んでいた、まるでスローモーションの動画を観ているようだった。

 

 やがて海面にぶつかると、また大きな音がした、爆発音のようにも聞こえた。

 

 クジラが着水したところから沢山の白い泡が噴き出して来る。それは凄いスピードで海面を覆い隠し、やがて海岸まで侵食してきた。

 

 僕の足元も泡だらけになったが、全く感触というものがなかった。

 

 泡で海と陸の境が無くなるくらいになると、僕は一箇所に泡が集まっていることに気づいた。

 

 よく見ると泡は蠢き、何かになろうとしているのが分かった。それはうねうねと意志を持ち、僕にはとても気味が悪く思えた。

 

 それは白い塊ではなく、はっきりと人間の形となっていた。やがて泡ですらなくなり、十歳くらいの人間となった。

 

 あれはクジラの子だ。

 

誰かが言った。いや実際には誰も言ってなかったのかもしれない。

 

 クジラの子はおぼつかない足取りで立ち、歩こうとしていた。

 

 直後、大きな波が現れ、一面の泡をすっかり流してしまった。気づいた時には、クジラの子はもういなかった。

 

 

 

 

 

墓場

 

 校門から入ると、曇り空がいっそう灰色に感じられた。

 

 地元の中学校跡、そのグラウンドには小さな祠が等間隔に並んでいる。

 

 祠と言うより、祠に似せた置物に過ぎない。余った木材で適当に作られており、大きさもバランスもそれぞれ違っている。穴が空いているものも見受けられる。どれもこれも強い風が吹いたら壊れてしまいそうだ。

 

 まるで子どもが造ったみたいだな。僕はそう感じた。

 

 僕はそのうちの一つに近寄る。そのぼろぼろの祠には、そこに相応しい、みすぼらしい大きくて不恰好な水色の折鶴が置いてある。その首の部分をよく見ると、

 

   エスミナツコ

 

とマジックで書かれていた。丁寧に書く気もない汚い字だった。

 

 彼女は高校の同級生だった。特に仲が良かったわけでもない。ときどき勉強を教えたりしていたくらいだ。

 

 僕は手も合わせず、ただ無感情にその名前をしばらく見ていた。お供え物もなにもなかった。

 

 どういった人間がどういった理由でこんな墓に入るのかは知らない。彼女がどういう家柄で、どんな生活をしていたのかも知らない。

 

 どういう人間がどういう理由でこんな墓を造ったのかも知らない。

 

 ただ、僕はふと、ここの墓を一つ残らず壊してしまおうかと思った。

 

 でも僕はそんなことはせず、そこを離れた。もう来ることはないだろう。

 

 校門を出るとき、最近また同級生が死んだのではなかったのかと灰色の空を見ながら思った。